共感マップのインサイトを次のアクションへ:ペルソナ・ジャーニーマップへの効果的な連携と活用
共感マップは、ユーザー理解を深めるための強力なツールであり、UXリサーチの初期段階で活用されることが一般的です。しかし、その真価は、得られたインサイトを単体で終わらせず、次のデザインプロセスへとシームレスに連携させることで最大限に発揮されます。経験豊富なUXリサーチャーの皆様にとって、共感マップは既にご存知のツールかもしれませんが、今回は、そのインサイトを具体的なペルソナ作成やカスタマージャーニーマップの策定、さらにはデザインアクションへと効果的に繋げるための実践的なアプローチに焦点を当てて解説いたします。
共感マップがもたらす「深層インサイト」の再確認
共感マップは、ユーザーが「言うこと(Says)」、「考えること(Thinks)」、「行うこと(Does)」、「感じること(Feels)」という4つの側面から、その内面と行動を深く掘り下げます。このプロセスを通じて、ユーザーの表面的な言動だけでなく、その裏にある動機、悩み、願望といった深層的なインサイトを抽出できる点が特徴です。
単なるデータ収集にとどまらず、これらの要素間の関連性や矛盾を分析することで、ユーザーの潜在的なニーズや満たされていない課題を浮き彫りにします。この段階で得られた「なぜ?」という問いへの洞察こそが、その後のデザインの方向性を決定づける重要な基盤となります。
インサイトを次のステップへ繋げる重要性
共感マップで得られたインサイトは、それ自体が価値あるものですが、そのままでは具体的な製品やサービスの改善には直結しにくい場合があります。これらの抽象的な理解を、より具体的で行動に繋がりやすい「ペルソナ」や「カスタマージャーニーマップ」といった形に変換することで、チーム全体での共通認識を醸成し、デザインの意思決定を加速させることができます。
特にデジタルツールを活用することで、この連携プロセスは飛躍的に効率化され、複数人での共同作業や遠隔地からの参加も容易になります。
共感マップからペルソナ作成への効果的な連携
共感マップからペルソナを作成するプロセスは、ユーザーのインサイトを「人」という具体的なイメージに集約する作業です。共感マップの各要素は、ペルソナの様々な属性や行動特性に直接的に貢献します。
- Says(言うこと): ユーザーの具体的な発言や引用は、ペルソナの口調や考え方を表現する際に活用できます。
- Thinks(考えること): ユーザーの思考は、ペルソナの価値観、信念、懸念、目標などを形成します。これは特にペルソナの「目標(Goals)」や「欲求(Needs)」を定義する上で重要です。
- Does(行うこと): ユーザーの行動パターンは、ペルソナの習慣、タスク、特定のツールとのインタラクションなど、行動面の特徴を記述するのに役立ちます。
- Feels(感じること): ユーザーの感情は、ペルソナの課題(Pain Points)や達成感(Gains)を具体的に表現するために不可欠です。感情の起伏は、ペルソナのモチベーションやフラストレーションの源泉を理解する鍵となります。
デジタルツールでの連携ヒント: MiroやMuralなどのオンラインホワイトボードツールでは、共感マップのボードから直接テキストや付箋をコピー&ペーストし、ペルソナテンプレートの各項目に配置することができます。共通する要素をグループ化したり、異なるユーザー間の類似点・相違点を比較しながら、複数のペルソナを同時に構築する作業も効率的に行えます。
共感マップからカスタマージャーニーマップ作成への展開
共感マップで深掘りしたユーザーの「感じる」「行う」といった情報は、カスタマージャーニーマップにおけるユーザー体験の感情曲線や行動ステップを具体化する上で非常に重要です。
- 行動(Does)の時系列化: 共感マップで洗い出されたユーザーの行動を、特定の目標達成に向けた一連のステップとして時系列に並べ替えることで、ジャーニーマップの骨子を形成できます。
- 感情(Feels)の可視化: 各行動ステップにおけるユーザーの感情(喜び、戸惑い、不満など)を、ジャーニーマップ上の感情曲線として描画します。共感マップで特定された「ペインポイント」や「ゲイン」は、ジャーニーマップにおける機会発見の重要な手がかりとなります。
- 思考(Thinks)と発言(Says)の文脈化: 各ステップでユーザーが何を考え、何を言う可能性があるかを記述することで、ジャーニーマップに深みと説得力をもたらします。これにより、特定のタッチポイントにおけるユーザーの期待や課題が明確になります。
デジタルツールでの連携ヒント: Miroのボードでは、共感マップのセクションとジャーニーマップのセクションを同一ボード内に配置し、線や矢印で関連付けることで、情報の流れを視覚的に表現できます。また、共感マップで発見された課題を直接、ジャーニーマップの「機会」として記述するテンプレート活用も有効です。
得られたインサイトを具体的なデザインアクションへ落とし込む視点
ペルソナやジャーニーマップが完成したら、いよいよ具体的なデザインアクションに繋げます。共感マップから得られたインサイトは、HMW (How Might We: どのようにすれば私たちは〜できるだろうか?) 質問の生成、アイデア発想、そしてソリューションの優先順位付けに不可欠です。
- HMW質問への変換: 共感マップやジャーニーマップで特定された「ペインポイント」や「機会」を、「どのようにすればユーザーの〇〇という課題を解決できるだろうか?」といったHMW質問に変換します。これにより、具体的な解決策を探索するための問いが生まれます。
- アイデア発想: HMW質問を基に、ブレインストーミングやアイデアソンを実施します。共感マップで理解したユーザーの深層心理やニーズは、よりユーザー中心の革新的なアイデアを生み出すための源泉となります。
- 優先順位付け: 発想されたアイデアは、ペルソナの優先度の高いニーズやジャーニーマップで特定された最もクリティカルなペインポイントにどれだけ貢献するかを基準に優先順位付けを行います。
デジタルツールを活用したシームレスなプロセス構築
UXリサーチの各フェーズでデジタルツールを効果的に活用することで、情報の一貫性を保ちながら、チームでの共同作業を最大化できます。
- 統一されたワークスペース: MiroやMuralのようなオンラインホワイトボードツールは、共感マップ、ペルソナ、カスタマージャーニーマップなど、異なるUX成果物を一つのボード上で管理できるため、情報の分断を防ぎます。
- テンプレートの活用と共有: 当サイトで提供するようなデジタル形式のテンプレートを活用することで、フォーマットの統一が図れ、チームメンバー間での認識齟齬を減らせます。完成したマップは、プロジェクト管理ツールやFigmaなどのデザインツールに直接埋め込んだり、PDFや画像としてエクスポートしたりして、関係者へシームレスに共有できます。
- コメントとフィードバック: ツール内のコメント機能やリアクション機能を活用することで、非同期でのフィードバック収集や議論が可能となり、遠隔チームでの共同作業も円滑に進められます。
まとめ
共感マップは、ユーザーの深い理解を促す強力な出発点です。しかし、その価値を最大限に引き出すためには、得られたインサイトをペルソナやカスタマージャーニーマップといった次のUX成果物へと連携させ、最終的に具体的なデザインアクションへと結びつける体系的なアプローチが不可欠です。
当サイトでは、このような一連のプロセスでご活用いただける、すぐに使える共感マップの無料テンプレートを豊富にご用意しております。ぜひこれらのテンプレートをご活用いただき、貴社のUXリサーチとデザインプロセスをさらに洗練されたものにしてください。